五輪書「地の巻」
地の巻
武蔵は、まず、この巻で、二天一流の基本的な考え方を展開している。武士たるものは文武の二つの道をたしなむことが原則、そして、兵法の法則を究めることこそ大切と説く。
◆此一流二刀と名付ける事二刀を腰につけるのは、武士の道である。この二刀の効用をさとらせるために二刀一流というのである。この二天一流にあっては、長いものでも勝、短いものでも勝つ。どんな武器でも勝ちうるという精神、これが二天一流の道である。
◆兵法の拍子の事何事についても、拍子(リズム、テンポ)があるものだが、とくに兵法ではリズムが大切であり、これは鍛錬なしには達しえないものである。拍子がはっきりしているのは舞踊や音楽などである。これは拍子がよく合うことによって、調子よくおこなわれる。武芸のみちについて、弓を射、鉄砲を打ち、馬に乗ることまでも、拍子・調子がある。いろいろな武芸や技能について、拍子を乱してはならぬ。二天一流の兵法の道は、朝に夕に、たゆみなく実践することによって自然と心が広くなり、集団的あるいは個人的な兵法として、世に伝えられるのである。
◆わが兵法を学ぼうとする人にとって、この道を行う原則がある。
第1に、邪心を持たぬこと.
第2に、道は、観念でなく実践によって鍛えること。
第3に、一芸でなく、広く多芸に触れること。
第4に、おのれの職能だけでなく、広く多くの職能の道を知ること。
第5に、合理的に物事の利害と損得を知ること。
第6に、あらゆることについて、直観的判断力を養うこと。
第7に、現象面にあらわれない本質を感知すること。
第8に、わずかな現象も(そのよって来る原因あり・・・)注意をおこたらぬこと。
第9に、役に立たない無駄なことはしないこと。
だいたい、このような原理を心にかけて、兵法の道を鍛錬しなければならない。特に原則をすっきりさせ、広く大局を見ることなくしては、兵法の達人となることはできない。
神子 侃訳「五輪書」