「先達に学ぶ居合道の極意」


居合道修業上のポイントについて、先人の教えに学ぶことが、欠かせない。
ここに、拾い上げた言葉を列挙し、平素の稽古を問い直す一助にしたい。(2020,4,24)

<礼儀(正しい態度・作法)>
1. 着装と作法も重要な点である。正しい着装こそその人の修業の深さを感じさせる。作法、礼法もしかりで、いかに心がこもっているか、品格の漂う立ち振る舞いが欲しい。
2. 開始線での立ち姿を見ると平素の修練の度合、つまり修業の練度を感じることができる。両足踵の下へ紙1枚敷いたつもりで立つ。臍下丹田に気が入り、さらに小胸が出て、項が「ビシッ」と生きてくる。
3. 正しい作法、特に座るときの姿勢や袴捌きで修業のあり方が判断できる。敵の機先を制するような座り方を心がけているか。
4. 着座するときは“前後左右に敵あり”との心構えで体の運用をすべきである。
5. 着座の際に足下を見たまま四方に気を配らず漫然と座るのを見かける。
6. 着座の動作が油断のない心と足遣いで座れたとき、初めて相手と居合わす姿となる。
7. 正座している姿が、臍下丹田に力をこめ、雄姿端然としているか、その姿から修業の深さが感じられる。

<技   前>
(鞘の内)
1.居合の極意は鞘の内にある。抜刀する前の気の攻め合い、つまり鯉口を切るまでが勝負である。抜かずして勝ちを得る教えを理解すること。

(抜きつけ)
1. 抜きつけは居合の中心生命である。遠山の目付、気勢充実、敵の機先を制し、序破急で抜いているか。抜きつけたとき、項が伸び、眼光は相手を捉えていて、上体は真っ直ぐであり、丹田に力がこもっていなければ、次の止めの切り付けにつながらない。
2. 抜き付けのときは、相手の殺気を知るや気を充満させ、項を立て自然に臍下丹田に力をこめ、左右の内股を締めながら両手を静かにかける。同時に腰を浮かせつつ両足爪先を立て、刀はおもむろに抜き出す。抜きつけたとき腰は相手に正対、上半身は四分六分の兼ね合いで四分は抜きつけた右の切り手、六分は左鞘引き。鞘引きは手で引き抜くことなく、胸の開きと脇の下を締めた左肘で強く引く気持ちで、鞘が背に一文字となるまで激しく引くとよい。
3. 「序破急」があるか。静かに→速度を速め→いっきに速度をつける、という緩急ある動きが剣先の勢いと冴えが生じる。
4. 剣先に冴えがあるか。鞘引きで決まるが、鞘引きは左手の方を強くし腰と一体にして行うことが大事である。力の割合は左手七分右手三分がよい。
5. 刀がよく働いているか働いているかどうかは、剣先に冴えがあるかないかで判断できる。剣先に冴えを生むには、まず上虚下実の体勢になっていることが大事である。そして左手での鞘引きと右手の連動を一体化させること。上虚下実の体勢ができれば物打ちに体重が乗っているので切り付け切り下ろしに冴えが生まれる。
6. 抜きつけ(抜き打ち)は、鞘引きから鞘放れまで淀みなく(序破急に則って)引き切ることが大事(袴の腰板まで引き切る)。抜きつけた後、鯉口が敵に見えないほどに握りこんでいるか。
7. こめかみに抜きつけるとき、刀の切っ先を左耳に沿って後を突く気持ちで振りかぶっているか。振りかぶりの手掛は正中線上になっているか。

(切り下ろし)
1. 切り下ろしはとどめの一刀です。丹田に力のこもった気剣体一致での剣先の冴えのある強い切り下ろしが大切です。左手を中心に強く、手の内での切り下ろしを勉強すること。
2. 切り下ろしは両肩を下げ(沈身)諸手を頭上高く上段の位に取り相手の状況を見極め、右足を一歩踏み込むと同時に両肩を使って下ろしながら、手首を使い、剣先は大きく円を描きつつ手の内にて切り下ろす。小指、薬指、拇指球という順に握り締める。切り下ろす刀は左手主導で行うが、手の内の働きは左右同じように締める。
3. 切り下ろしの教えに「刀で切るな腕で切れ、腕できるな腰(腹)・足で切れ」とある。腰・足・手を一体にして全身の運用、特に腰を要とす。

(血振り)
1. 血振りした剣先は敵に向け、いつでも攻撃のできる体勢である。「いつもいかなる時も充分ですよ」という心のある剣心一体の居合腰になる。血振り後の足の踏みかえひとつにも意味があり、引きつける足は攻め足である。

(納刀)
1. 納刀に心の感じられない型のみの残心が多く、気迫が伝わってこない。納刀における残心は、懸待一致強い攻めが現れるように。
2. 納刀においては「抜くぞ、抜くぞ」と十分なる残心を示しながら納める。
3. 残心は品格を生む大事な要素である。一つの動作が終わって、次の技に移るまでの間に倒れた敵を見越し安全な位置まで移動して敵との縁を切ることも残心。身構え、気構えを保持し続けること。

(その他、所作についての教え)
1. 「居合とは抜くも納むも左から」の教えの通り、激しい抜きつけをしようと思えば、左の鞘引きを激しくしなければならない。左手の小指は袴の帯に強くあて、鯉口は後方に強く引く。切り下ろしは、物打ちでしっかり切る。刃筋正しく左手で重く切る。納刀は攻めと守りの手の内で静かに納める。
2. 居合に命が宿っているか、二つのポイント。一つは「手の内」の冴えであり、もうひとつは「仮想敵」への意識である。
3. 居合は腰で抜き、腹で切り、腹で納めるという教えがあるが、これは臍下丹田で呼吸せよ、ということだと思う。
4. 「気攻めを緩めるな、体勢が整うまで次の動作に行くな」の教えあり。気を緩めない方法として効果的なのが複式呼吸である。
5. 技に緩急強弱、序破急が見られるか。
6. 肩の力が抜けているか。肩の力は切り結ぶ瞬間に下腹部へ下ろすことを修得して欲しい。腹で抜き腹で切り、腹に収める。下腹に溜めた息は少しずつ大切に使うことを呼吸法で修得すること。
7. 足・体・剣の3さばき、相手を逃さぬ目付(居合道動作の四大要素)など練度を高めること。腰から動くことを覚えれば、自然と体と足は円滑に運びます。

<心 構 え>
1. 目は常に仮想敵を追っていなければならない。敵を追う活きた目となれば、技にも迫力を感じる。基本的には、勝ちを収めるまでは相手の顔面を中心にした目付。切り下ろし、血振り、納刀が終わって柄から右手を離すまでは、倒した相手に残心で目線を落とす配りが大切。仮想敵を意識し修練すること。「ただ、刀を抜き、納めるのが居合ではない」今、ここで敵とどのように闘っているか、」どう対応するか・・・そこに自分を置いて稽古すること。
2. 目線が常に敵に向けられ、床上に落とすことがない。
3. 「目付」も大事。瞬きしたり、目線を変えたり、目を泳がせないという、心の落ち着きがなければならない。
4. 技と技の間に気持ちに切れがなく、縁のつながった技として完了していること。
5. 間には緩急の間と心の間の二つがある。緩急の間は、技の状況に合った動作で、心の間とは心の中で動と静のバランスを整えること。これは呼吸法と関連している。
6. 道場以外でも稽古はできる。呼吸法、手の内、姿勢など日常生活で工夫する機会はいくらでもある。

<気・剣・体の一致>
1. 抜きつけと足を踏み出す動作が一致していなければならないが、右足を踏み出してから切り下ろす方が多い。特に「気と気迫が」満ちていること。