剣道形の考察

剣道講習会や審査会では剣道形の重要性をよく耳にする。が、普段の稽古会では剣道実技の稽古が中心で、形の練習は少ないのが現状ではなかろうか。試合に重きを置く稽古となると、なおさらである。昇段審査の前に、忘れそうになった形の順序を確認しながら形稽古に励む風景も珍しくない。

そこで、剣道修業の原点に帰り、剣道形の効用について先人の教えを再考してみたい。

◆高野佐三郎はその著「剣道」で、形の必要性と、演じる時の注意を次のように述べる。
剣道の形は剣道の技術中最も基本的なものを選んで組み立てたるものにして、之により、
姿勢を正確にし
眼を明らかにし
技癖を去り
太刀筋を正しくし
動作を機敏軽捷にし、
刺撃を正確にし、
間合いを知り、
気位を高め
気合を練る
等甚だ重要なるものなり。故に基本動作を習熟するに至れば適宜に形を交えて教授するを可とする。

○形を演ずるにつきての注意として
形を演ずるにあたりては、充分に真剣対敵の気合を込め、寸毫の油断なく、一呼吸と雖もおろそかにせず、剣道の法則にしたがって確実に演錬すべし。形に重んずべきは単にその動作のみならず実にその精神にして、気合い充実せず精神慎重を欠かば如何に軽妙に之を演ずるとも一つの舞踊、体操にすぎざるのみ。

◆重岡 磤「日本剣道形」の解説によれば、
形を練習すれば剣道のすべてに効果があるとして、具体的に次のことを挙げる。
1.礼儀が正しくなり、落ち着いた態度が身につき、稽古だけでなく、平常でも姿勢が良くなる。
2.相手の動きや、心を観察する観の目が養われ、自分の体の動きが自然に、しかも機敏に正しく動くようになる。
3.また、技術の悪い癖を取り除いて、正しい刃筋の通った太刀の使い方を覚、いろいろな間合いの取り方もわかる。
4.気合が練れて気迫発声も充実し、技の末節にとらわれないで,技の合理性、つまりさまざまな心技の理合も理解できるようになる。
5.そして呼吸や打突の機会、気の争い、残心等も習得できる。
6.練習を重ねることにより剣道の最も欠かせぬ位や風格も自然に備わってくる。
以上の記述のごとく、剣道の理念のすべてが、形の練習によって身についてくる。つまり、形を練習すれば剣道の技術の原形が修得され、また精神的な錬磨も果たされるのです。と、その効果を説く。
このような効果の大きい剣道形について、剣道修業上欠かしてはならない。しかし、これだけの効果を出すのは容易でないと思う。百錬自得にまつよりほかあるまい。

よくよくかみしめて、剣道修業の糧にしなければならない。